犬の自己免疫介在性溶血性貧血
犬の自己免疫介在性溶血性貧血
自己免疫疾患について
免疫というのは通常、細菌やウイルス、寄生虫などの病原体から体を守るうえでなくてはならない機能です。
その役割を担っているのが、白血球という血球成分になります。
好中球やリンパ球、単球などに分類されますが、それぞれが異なった免疫機能を発揮して、恒常性を維持するようにしています。
風邪を引いたり、病原菌由来で体調を崩したりすると白血球が増えるわけです。
今回の自己免疫疾患とはその免疫機能が異常をきたし、自分で自分を異物と誤認識して、排除しようとしてしまう免疫の誤作動のようなものです。
その中でも有名なのがいくつかあります。
皮膚:天疱瘡
関節:リウマチ
腎臓:糸球体腎炎
などですが、犬では特に
血液:溶血性貧血
というものが有名です。
血管内における血球成分(平常状態)
溶血性貧血について
そもそも溶血とはどういうことでしょうか。
文字通り、血液が溶けるということなのですが、正確には、「赤血球が溶ける」ということになります。
赤血球は上記の白血球とは異なる役割をになっています。それは「酸素の運搬」です。
呼吸により肺で取り入れた酸素は、赤血球の働きによって全身に届けられます。生きていく上では、ある程度は絶対になくてはならないのが赤血球なのです。
一方で、白血球は数がかなり減ったとしても、すぐに命につながることはありません。もちろん危険な状態ではあるのですが。
その大事な大事な赤血球が壊されてしまう自己免疫疾患が本疾患です。
自分の白血球が、自分の赤血球を攻撃してしまうわけです。
その結果、機能できる赤血球の数が減り、貧血状態となります。
貧血状態となった体は、命の危険にさらされます。
白血球が赤血球を貪食している様子(溶血性貧血)
症状
この病気の特徴のひとつとして、
「春頃に多くみられる」
という傾向があります。
おそらくは、人間でいう花粉症のように、たくさんのアレルゲンにさらされるようになるのが、春頃であるからということかと思います。
そしてその症状ですが、
・元気や食欲の低下
・尿の色の変化(紅茶色の尿)
・呼吸状態の悪化
などがあげられます。
非常に急激な体調の変化となるので、発症して数日でかなり状態が悪化してしまうことが一般的です。
特に尿の色の変化がみられた場合はこの病気を疑うことが多いですね。
診断
診断は一般血液検査に加えて、専用の特殊検査を行います。
特殊検査にて陽性反応が出た場合は、積極的な治療をすすめていきます。
(後述となりますが、陽性反応が出ないケースもあります)
また、検査意義は少ないのですが、レントゲン検査や超音波検査にて脾腫が見受けられることもしばしばあります。
脾腫とは脾臓の腫大化です。免疫が異常に活発になることで、免疫機能に大きくかかわる脾臓が、ともに大きくなるという現象です。
本疾患における特徴的な血液像です。
顕微鏡で血球の状態を確認することができます。
血液塗抹にて、有核赤血球の存在や、大小不同となった赤血球が多くみられます。
治療
自己免疫疾患の治療はほとんどが免疫抑制治療となります。
その名の通り、免疫を抑制させる薬を投与することが重要です。
ただし、溶血性貧血においてはそれだけではうまくいかないケースもしばしばあります。
必要に応じて、輸血療法、抗悪性腫瘍薬や免疫グロブリン製剤の投与を検討いたします。
当院ではできるだけ、すべての治療法を実施することで、生存率を高めるようにしています。
どうしても本疾病の治療には時間がかかるため、できるだけの治療選択を用意しておく必要があります。
非再生性の免疫介在性溶血性貧血?
自己免疫介在性溶血性貧血はほとんどが再生性の貧血とされます。
再生性というのは、貧血状態に対して、血液をつくろうと体が反応している状態をさします。
骨髄での赤血球の産生が活発になるということですね。
しかし、ごくまれに、再生しないパターンがあります。それが非再生性というわけです。
その場合、恐ろしい現象が体内でおきていることとなり、診断にも苦慮することが多くあります。
非再生性の場合、赤血球を壊されるというより赤芽球が壊されるというイメージとなります。
赤芽球とは赤血球のもととなる細胞です。そして、それは骨髄中に多く存在します。
つまり、非再生性の免疫介在性溶血性貧血とは骨髄の病気ということになります。
そして、その際には、上記の特殊検査に反応しないケースがあります。
なので、診断が難しいわけです。
当院では、経験とあらゆる知見から、非再生性の疾病に対して治療を行うようにしています。
悩んでいては治療が手遅れになることが多いこの病気。立ち向かっていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。