犬の膝蓋骨脱臼(パテラの手術)
原因
先天的または後天的に発生します。多くは滑車溝の構造によるものと考えられます。そのほかに筋力の問題、腱の張力の問題などが考えられます。後天的の場合は外傷や過度の運動による影響が大きく、早期の対策が重要になります。
症状
罹患した後肢を挙上するようになります。発症直後は激しい痛みを伴うため、大きな鳴き声をあげることがありますが、すぐに鳴きやむことが一般的です。
基本的な膝関節の解剖図
グレードの評価
■グレードⅠ
膝蓋骨を脱臼させることはできるが、正常な関節運動時に自然に脱臼することはほとんど無い。身体検査時に膝蓋骨を手で脱臼させることができ、圧迫をやめると膝蓋骨は整復する。関節の屈曲と伸展は正常。
■グレードⅡ
大腿骨の軽度の弯曲および捻転性の変形が存在することがある。膝蓋骨と手で外方へ圧迫することで変位したり、膝関節の屈曲により脱臼することがある。膝蓋骨は検査医が整復するまで脱臼したままになっているか、動物が脛骨を伸ばして回転を元に戻した時に自然に整復する。
■グレードⅢ
膝蓋骨はほとんどずっと内側に脱臼したままになっているが、膝を伸展した状態にして手で整復できることもある。しかしながら、手で整復した後、膝の屈曲と伸展によって膝蓋骨の再脱臼が生じる。四頭筋群は内側に変位している。膝関節の支持性の軟部組織の異常や大腿骨や脛骨の変形が存在することがある。
■グレードⅣ
近位脛骨プラトーが80-90℃内側に回転していることがある。膝蓋骨は脱臼したままであり、手で復位することはできない。大腿骨の滑車溝は浅くなっているか欠如している。また、四頭筋群は内側に変位している。膝関節の支持性の軟部組織の異常や大腿骨や脛骨の変形が著明。
治療
膝蓋骨脱臼は外方脱臼および内方脱臼に分類されます。大型犬は外方脱臼、小型犬は内方脱臼であることが多い傾向にあります。
症状が軽度の場合や初発のときは安静にし、鎮痛剤などで対策します。
後肢の挙上がなかなか止まらなかったり、再発をくりかえす場合は手術により骨の矯正することがあります。
当院では滑車溝の形成術をゴールドスタンダードにしています。
滑車溝を深くすることで膝蓋骨を正常な位置に配置し、安定した歩行を可能にします。
なお、入院期間が1~2週間必要になります。
重度の内方脱臼の場合は脛骨粗面転移を実施することもあります。
ただし、外方脱臼の場合や、関節面が変形するような進行した脱臼の場合は手術をしても良い結果が得られないこともあります。
治療に関して詳しくは当院で受診いただくようにお願いいたします。
症例2
左後肢の膝蓋骨が内方に脱臼しています。内方脱臼は小型犬に多くみられるパターンです。その脱臼のレベルに応じて内科的治療や外科的な治療を選択します。
今回はグレードⅢと判定し、外科的整復を行っています。
当院では主に滑車溝形成術を実施しています。滑車溝を適切なサイズに調整してあげることで、脱臼しないようにします。
調整が完了した滑車溝です。写真だとなんだかわかりづらいですね。脱臼しないように溝が深くなっています。
手術後はちゃんと膝蓋骨が正常な位置に存在していること、しばらくは安静にすることを意識して管理します。
スムーズに歩けるようになるまで1週間強かかります。それまでは入院管理が必要となります。
脛骨粗面転移術について
gradeⅣになってしまい、重度の骨の変形をともなった症例では、骨を大幅に変形させる矯正手術が必要となります。
これを一般的に脛骨粗面転移術と呼びます。
転移した脛骨粗面は骨スクリューなどを用いて、適切な部位に設置しなおします。
そして、同時に上記の滑車溝形成も行い、膝関節の可動性について適切に修正します。
ただ、一般的にgradeⅣの手術については、歩行状態が大幅に改善することが少ないのが現状です。
さらなる悪化を防ぎ、疼痛のケアをするための手術といえるかもしれません。